第十三章:疼く身体に、君の名を這わせて
「……はぁ、っ……んっ……」
白く静かなシーツの上で、梨乃は一人、身をよじらせていた。
彼がいないベッド。
でも──彼がいた夜の熱は、まだこの身体に残ってる。
唇を噛みながら、指先を太腿の内側へ這わせた。
下着越しに触れたそこは、信じられないくらいに濡れていて──
彼の指がまだ、そこを開いて愛撫しているような錯覚さえする。
「っ……ん、やだ……っ」
でも、やめられない。
彼が触れてくれないなら、自分で確かめるしかなかった。
自分の指を、そっと……吸い込まれるように沈めていく。
「蓮……っ、ねえ、蓮……」
名前を呼びながら、震える指先を奥へと滑らせた瞬間──
彼の低く囁く声が、空耳のように脳裏に響いた。
「……ん、あぁ……だめ……」
シーツを掴んだまま、梨乃は自分の指先をゆっくりと沈めた。
それだけで腰が跳ねる。
自分の動きなのに、どこか──“誰かに命じられているような”錯覚。
「……もっと、奥……欲しい……っ」
そんな自分の声に、ゾクリとした。 耳の奥で、彼の低い声が重なる。
『勝手にイって……そんなに僕が欲しいの?』
誰かが、確かに耳元で囁いた。
けれど、振り返っても──誰もいない。
──聞こえるはずのない声に、涙が滲む。
動かす指が止められない。
いや、止めようとしない自分が、いる。
ただの自慰じゃない。
──これは、彼に見られてる中での“奉仕”だった。
その時、首筋をそっと撫でるような風が吹いた。
いや、それは……指だったのかもしれない。
「……っ、蓮……?」
振り返る。
そこには、誰も──いない。
でも、確かに感じた。 “彼の気配”と“熱”。
……風が、また静かに揺れた。
梨乃はそのまま目を閉じる。
(蓮……お願い、戻ってきて……)
……その時、ふいに。
耳元に、懐かしくて濡れた声が囁いたような気がした。
『──まだ、君は僕を欲しがってるね』
「んっ……や、だめ……っ」
シーツを握りしめ、梨乃は身をよじらせていく。
自分の指先で触れているのに──
心の奥では、蓮の指がそこを押し広げているような錯覚が止まらない。
「……っあ、ぁ……蓮……っ、あの夜みたいに……もう一回……」
声が震える。
脚をぎゅっと閉じても、疼きは止まらない。
むしろ、触れれば触れるほど、蓮の記憶が押し寄せてくる。
指を深く沈めた瞬間──
『……そんな顔、他の誰にも見せないで』
耳元で囁かれたような幻聴に、身体がびくんと跳ねた。
「っは、ぁ……だめ……また、こんな……っ」
指が止まらない。
身体が震える。
彼に堕とされたが、嬉しくて仕方ない自分が
──怖いほど愛しい。
その瞬間、全身が甘く痺れて、絶頂が駆け抜けた。
脚の間で濡れた指を抜いたとき、梨乃は荒い息を吐きながら、ゆっくりと天井を仰いだ。
「……もう、いないんだよね……」
誰にともなく呟いたその声に──
ふと、空気が震えた。
風なんて吹いていないはずなのに、
窓のカーテンが音もなく揺れる。
……何かが、近づいている。
肌が粟立つ。
空気が、重くなる。
身体が、勝手に反応して──心臓が跳ねた。
「まさか……」
小さく呟いたそのとき──
背後から囁かれた名前。
耳の奥に直接触れるような、低く甘やかな声。
身体が凍りついた。
でも、それは恐怖じゃない。
本能が求めていた声だった。
ゆっくりと振り返った。
「……梨乃」
そこに──いた。
蓮が、静かに立っていた。
「君が、呼んだから。……戻ってきた」
梨乃の瞳から、また涙がこぼれた。
第十四章:再会の熱に、身体が目覚める
「やっと……会えたね」
その声が、全身に染み渡る。
背後から、そっと抱きしめられたぬくもり。
この体温、この匂い、この声音──
すべてが、梨乃の記憶の奥をじんわりと溶かしていく。
けれど、涙が止まらない。
寂しかった。怖かった。
夢だったのか、現実だったのかもわからないほどに──身体の奥まで、彼を求めていた。
「蓮……っ」
振り向いた瞬間、唇を塞がれる。
深く、長く、熱を持った口づけ。
触れていなかった時間を埋めるように、蓮の舌が、梨乃の中を優しくかき混ぜる。
「さぁ、思い出して。……君の身体も、心も、僕のものだったってこと」
その言葉と共に、蓮の手がゆっくりと肌をなぞる。
肩紐が落ちる。
胸に触れる指先が、まるで迷いがない。
「っ……あ、ぁ……っ」
敏感になった乳首に舌が触れた瞬間、梨乃の身体が跳ねる。
ただ触れられただけなのに、奥がずくんと疼いた。
「ほら。……君の身体は、ちゃんと覚えてる」
蓮がくすっと笑う。意地悪な笑み。
でも、その声音に、梨乃の奥がまた濡れていく。
「ねえ、蓮……どうして、いなくなったの……?」
蓮の手が、ふと止まった。
視線が合う。その奥に、言葉にならない何かが揺れる。
そして──
「……君が、記憶を封じたからだよ。
僕を、“消した”のは──君自身だった」
梨乃の瞳が揺れる。
でも、それでも彼は──今、ここにいる。
「……もう、離れないで」
囁くようにそう告げたその瞬間──
蓮の瞳が、ゆっくりと熱を帯びて、梨乃をベッドに押し倒した。
「……もう我慢しない。 君が奪った分、一つ残らず、上書きするまで終わらせないから」
「蓮……っ、あ、や……んっ」
シーツの上に押し倒された瞬間、蓮の唇が首筋を這い、
熱を孕んだ舌先が、ゆっくりと敏感な場所を探り当てていく。
「……可愛い声、ちゃんと出るじゃないか。
やっぱり君は、身体の方が正直だね」
囁きながら、彼の指が太腿の付け根をなぞる。
濡れた下着越しに、じっとりとした熱が伝わって──
梨乃の喉から、耐えきれない喘ぎが漏れた。
「っ……んんっ、だめ……そこ……っ」
「もう、君が“自分で”触れてたの……見てたよ。
あんなに濡らして、僕の名前、何度も呼んで──可愛かった」
蓮は囁きながら、下着をずらし、濡れたそこへ指を滑り込ませる。
一度も戸惑うことなく、まるで元々知っていたみたいに──いや、“知っていた”のだ。
梨乃の奥の癖も、弱さも、すべて。
「っあ……っ……やっ、そこは…だめぇ……っ」
腰が跳ねる。
細い指が中でくちゅくちゅと音を立て、出口の奥をゆっくりと掻き混ぜられるたびに、思考が霞んでいく。
「声、我慢しないで。……もっと君の“今”を聞かせて」
その言葉と同時に、もう一本──
中指と薬指が、ぬるりと奥まで入り込む。
「ぁあっ……! ふっ、ああっ……!!」
ベッドの軋む音と、熱を掻き回される水音。
再会したばかりなのに、梨乃の身体はすでに絶頂寸前だった。
「やだ……っ、こんなの、すぐ……っ」
「可愛いよ、梨乃。
君の奥が、“僕のことしか受けつけない”って言ってる」
耳元に囁かれたその言葉だけで──
梨乃の全身がビクンと跳ねて、
そして、崩れた。
「……っあ、ぁあっ、んんんっ……♡」
絶頂の波が、一気に全身を飲み込む。
涙が滲む。爪が蓮の背に食い込む。
身体も、心も、快楽に塗り替えられていく──
第十五章:私を壊したのは、あなた
「……もう、動けないよ……っ」
荒い吐息を繰り返しながら、梨乃はぐったりと蓮に抱きついていた。
ベッドのシーツは乱れ、空気は甘く湿っている。
まだ身体の奥がじんじんと疼いて、余韻が熱を持っているのがわかる。
けれど蓮は、そんな彼女の耳元で、甘く、低く囁いた。
「ねえ──思い出した?」
「……え……?」
「最初に僕と出会った夜。
君が、全部自分から“差し出した”ってこと……」
梨乃の中で、何かが弾けた。
(最初に……?)
再び、記憶が揺らぐ。
あの廃墟ではない。
今の部屋でもない。
もっと暗く、もっと深い、夜の中──
香水の香り。
柔らかいソファ。
脚を組んだまま笑う男──蓮。
その前に跪く自分。
(……やだ、これ……私……)
彼の香水が鼻先をかすめた瞬間、 無意識に太腿を擦り合わせていた自分に気づく。
(──あの時の私は、もうすでに……)
「君が言ったんだ。“隅々まで全て、好きにして”って。
あの時の君は……最高に綺麗だったな」
指先が頬を撫でたかと思えば、次の瞬間には首筋をくすぐり、
肌の奥に眠っていた熱を、また静かに呼び起こしていく。
「……もう、やめて……っ」
梨乃の声は震えていた。
でも、それは拒絶ではなかった。
ただ怖かった。
記憶の中の“自分”が──
あまりに快楽に、従順に、蓮に従っていたから。
「君が壊れたのは、僕のせいじゃない。
“壊してほしい”って、君が望んだんだよ」
その瞬間、再びベッドに押し倒される。
重なる視線。
見つめられているだけで、奥が疼く。
(……思い出したら、もう戻れなくなる…)
それなのに。
なぜか心の奥が、支配されたままの今を望んでる──。
「ほら……身体は正直だね」
蓮の指が再び濡れた中心を撫でた瞬間──
梨乃の目尻から、涙が零れた。
「……っあ、ぁ……もう、勝手に脚を開いてしまうの……」
彼に抱かれて、満たされて、支配されて。
そうやってしか、自分を感じられなかった。
(そうだ……私を堕とした、──蓮)
でも、それを悔いてない。
堕とされて、初めて“生きてる”って思えたから──。
ほんの少しだけ灯った感情があった。
“それでも、傍にいてほしい”
第十六章:君の奥で、今を刻む
「……まだ、足りないよね?」
蓮の声は低く、囁くように甘い。
でもその声音の裏には、逃れられない確信があった。
「違う……私、もう……っ」
息を詰めながら、梨乃は首を振った。
けれど──下半身は、熱に濡れて疼き続けている。
さっき絶頂したばかりの身体が、もう彼を求めてるなんて。
信じたくないのに、反応がすべてを物語っていた。
「君のここ……」
蓮が指を這わせた場所から、とろりと音を立てて蜜が溢れる。
「……まだ、僕を待ってるよ」
そう囁くと同時に──
蓮の指が、濡れた中心をゆっくり押し広げていく。
「んっ……あ、あぁ……」
脚が震えた。奥を押し広げられるたびに、
下腹部の奥が、甘く痺れていく。
(いやっ……私、奥で彼を締めつけて……)
「……ふふ、君の中、吸い付いてくる」
ゆっくりと突き上げられるたびに、
梨乃の奥が彼の形を記憶していく感覚。
「あっ…、あぁぁっ…んぁっ…」
(蓮の熱が……私の奥に、“今”を刻み込んでくる……)
「こんなふうに……記憶じゃなくて、今の“僕”を感じて」
唇が重なった。
甘く、でも確かに支配的なキス。
蓮の体温が、鼓動が、肌越しに伝わってくる。
「ねえ、梨乃……
夢でも記憶でもない、“今”の僕を君の中に残してもいい?」
涙が滲む。
彼は、身体じゃなくて──心まで繋ごうとしてくれている。
「……壊して、いい…。
でも……今度は、ひとりにしないで……お願い…」
その言葉を合図に、
蓮がそっと、身体を重ねてきた。
「君の奥、今から……僕で満たすから」
ぬるりと熱が侵入する感覚に、梨乃は目を見開いた。
痛みではない。
ただ──求めていた、彼の熱が、奥まで届いてくる。
第十七章:貫かれた奥に、愛が滴る
「梨乃……いくよ」
蓮の声が、低く、喉の奥で震える。
それだけで、奥がまたずくんと疼いた。
身体が、勝手に準備を始めている。
さっきまで蓮の指で崩されていたのに──
今度は、それを遥かに超えるものが、これから入ってくる。
「っ……あ、待って、蓮……っ、まだ……」
そう言葉にするより早く。
彼の脈打つ芯が、ゆっくりと梨乃の内を割って侵入してくる。
そして──一気に、貫く。
「ひぁっ……あ、あっ、あああっ……!」
目の前が、白く弾けた。
腰が跳ねる。
でも逃げられない。
抜けない。
奥の奥まで、蓮の熱が入り込んで──
梨乃の身体を内側から押し広げていた。
「きつい……君の中、こんなに僕を締めつけてる……」
耳元で、熱っぽく吐き出すように囁かれる。
「っだ、って……だって……っ、蓮の、のが……っ」
言葉にならない。
もう奥が勝手に蠢いて、飲み込もうとしてくる。
「ほら……感じて。
今君の中で、僕が暴れてる──
君の中、僕の形に変わってく……」
腰を打ちつけられるたび、濡れた音が“ちゅぷっ、ぐちゅっ”と交互に響く──
それが余計に恥ずかしくて、身体がまた跳ねる。
「ああっ……っや、だめ……そこっ、奥……っ、だめなのにっ……」
「ここが好きだって、前にも言ったよね。
君の一番奥……“僕しか届かない場所”」
その言葉と同時に──
深く突き上げられた。
「んっあああああっ……!!」
絶頂が、襲う。
蓮にしか触れられない場所を貫かれ、壊されて、満たされて──
それが快楽であることが、怖いくらい幸せで。
奥を貫かれたまま、蓮に抑え込まれて──
どうしようもない快楽が、波のように何度も身体を呑み込む。
「っは、あああ……っ、蓮……もっと、奪って……♡」
泣きそうな声でそう言った梨乃を、
蓮は優しく抱きしめながら、さらに深く──突き上げた。
第十八章:目隠しされた私の奥に、あなたの声が落ちていく
「目、閉じて」
蓮の声が、やけに静かに響いた。
それだけで、梨乃の心臓が跳ねる。
視界を奪われるだけで、全身の感覚が敏感になるのを知っていた。
けれど──次の瞬間、滑らかな布が目元を覆う。
視界が閉ざされ、
音と肌の感覚だけが、鋭く浮かび上がる。
「……っ、あ……」
蓮の手が、ゆっくりと手首に触れる。
そこに冷たい何か──革のベルトのようなものが巻きつけられ、
動きを封じられた瞬間、梨乃の呼吸が浅くなった。
「……蓮……?」
「安心して。
これからは、僕が導くから──もう、自分では何も選ばなくていいよ」
囁かれたその言葉だけで、奥がきゅっと疼く。
目隠しと拘束。
逃げられない。
──それが、怖いほどに、心地よかった。
「君がどんなふうに喘ぐか、どこが一番感じるか……
僕は全部、知ってる」
蓮の唇が首筋を這い、胸元をやさしく噛む。
「んっ……く、ぅ……っ」
縛られた手がシーツを探る。
でも、指先は宙を彷徨うばかり。
その無防備さが、たまらなく恥ずかしい。
でも同時に、熱を帯びた興奮が全身に広がっていく。
「──鏡に、映してあげる」
目隠しがほどかれると同時に、 梨乃の目に飛び込んできたのは、自分の全身だった。
手首を縛られ、脚を開かれ、羞恥に濡れる顔。
そのすぐ背後には、蓮の静かな瞳。
まるで、すべてを“愛おしむように”見つめていた。
「……っや……なに、これ……っ、見ないで……っ!」
「違うよ。見るのは、君自身」
耳元で囁く蓮の声。
そのまま太腿を開かされたまま、鏡の前に押し出される。
「ねえ……これが本当の“君”じゃないの?」
「僕に支配されて、縛られて、感じて……
そんな顔して喘いでる自分、直視できる?」
梨乃の唇が震える。
でも、目は逸らせない。
鏡の中の自分は──
確かに“気持ちよさそうに”口を開けていた。
「……いや……っこんなの……私じゃ……っ!」
「じゃあ、こっちの君は?」
「僕の上で腰を振って、
もっと奥が欲しいって泣いた君は?」
蓮の指が、濡れた中心に触れる。
ちゅぷっ──いやらしい音が響いて、
自分の蜜が太腿を伝うのが、鏡越しにはっきり見えた。
「……っやぁ……っお願い、もうやめて……」
「でも君は……ここが欲しいんだろ?」
──その瞬間、
蓮の熱が、またゆっくりと、奥へ入り込んでくる。
蓮の指が、濡れた中心にそっと触れた。
ちゅぷっ、といやらしい音が響き、
蜜が太腿を伝っているのが、鏡越しにはっきりと見える。
「……っやぁ……っお願い、もうやめて……」
「でも君は……ここが欲しいんだろ?」
その瞬間、蓮の熱が、ゆっくりと奥へと入り込む。
「ひゃっ──あ、ああぁっ……!」
目の奥が痺れる。
逃げられない。
けれど、それ以上に──感じてしまう。
「見て、梨乃……」
「僕のモノを、奥まで咥え込んでる君の顔──
どこを見ても、抗ってるようには見えないよ?」
腰を打ちつけられるたび、
鏡の中の自分が、震えながら喘いでいるのが見える。
「っ……あ、ああんっ……いや、っ見ないでぇ……っ!」
「どうして? 気持ちよさそうだよ。
ほら、腰、ちゃんと僕に合わせて動いてる」
そう言われた瞬間──
自分が無意識に、蓮の腰に合わせて動いていたことに気づく。
「……っう、そ……っやだ……やだぁ……っ」
蓮は梨乃の手首を縛ったまま、
背後から深く突き上げる。
「じゃあ、教えて……梨乃」
「泣きながら拒む君と、身体で応える君── どっちが“偽り”で、どっちが“本物”?」
「……それとも──どっちも、君?」
「っあ……っあぁぁっ……!!」
鏡の中で、目尻を濡らしながら、
口を開いて何度も絶頂に達する自分。
理性と羞恥が溶けて、
もうどちらが“嘘”かなんて、わからない。
「……わかんないよぉ……っ」
「なら、僕が答えを教えてあげる」
「君の感じ方も、乱れ方も、声も……
どれも余すところなく、僕のものだってことを──ね」
最後の一突きが、奥を貫いた瞬間、
梨乃の世界が、真っ白に弾けた。
鏡の中の私は、
泣いていた。
でも、それでも──
彼を欲しがる顔をしていた。
第十九章:逃げられないのに、どうして安心してるの?
視界が霞んでいた。
熱と涙と絶頂の余韻で、
身体の感覚がまだ地面に戻ってきていない。
「……はぁっ……っぅ、ん……」
縛られた手首の先で、
蓮の指が優しくほぐすように撫でてくる。
まるで──さっきまであんなに激しかったのが嘘みたいに。
「すごく、綺麗だったよ」
耳元で囁かれたその言葉に、また熱がこみあげてくる。
「……っバカ……っ、言わないで……っ」
「なんで? 本当のことなのに」
「鏡の中の君……あんなに必死に、僕にしがみついてた」
「……っ、やだ……やめてってば……」
蓮はふっと笑った。
優しくて、でもどこか意地悪な笑み。
「逃げようとしないのに、“やだ”って言うの、可愛いよ」
そう言いながら、
彼はゆっくりと梨乃の手首の拘束を外してくれる。
自由になったはずなのに──
手は、まるで蓮の言葉に縛られたままだった。
「……どうしたの?」
「逃げられるよ? 今なら」
そう言って、彼はベッドの端に座った。
距離はできた。
でも──身体は動かなかった。
(逃げられるのに……動けない……)
膝が震える。
身体の奥が、またきゅっと疼く。
「ねえ、梨乃──教えて。
どうして、逃げられるのに……僕のこと、見てるの?」
視線が合った。
蓮の目は、いつものように静かで深くて、
でもどこか、すがるような色を含んでいた。
「……わかんない……」
「でも……あなたが触れてくれると……安心するの」
その瞬間、蓮がそっと手を伸ばして、
梨乃の頬に触れた。
「だったら、もういいよ」
「君は、逃げなくていい。
僕の声で感じて、僕の手で乱れて…… 他の誰にも、そんな顔、見せなくていい」
(逃げられないのに、
どうして……こんなに安心するんだろう)
第二十章:夢じゃないなら、私の現実はあなたの中
静かだった。
いつからか、部屋の時計の音すら聞こえなくなっていた。
蓮の腕の中。
その体温を、
胸の鼓動を、
今なら“現実”として信じられる気がする。
「……ねえ、蓮」
「私、戻れないんだよね。もう──元の生活には」
「うん」
「君は、もう僕のものだから」
その言葉が、優しくて怖くて、
でもなぜか、心がきゅっと落ち着いた。
蓮は、ベッドの上に身体を預けたままの梨乃に、
そっと指を絡める。
「だってさ、梨乃。
今の君って、まだ現実だって信じてる?」
「……え?」
「縛られて、鏡に見せつけられて、
泣きながら何度も絶頂して……」
「そんな君が“現実”だって言われても、
……君、信じられる?」
一瞬、答えられなかった。
けれど、ふと気づく。
──現実じゃなくてもいい。
この腕の中が、蓮の温度が、
私のすべてだと思えるなら。
「ねえ」
「夢か現かなんて、もうどうでもいいよ」
「蓮の声が届いて、私の身体が応えて──」
「あなたの声が身体の奥まで響いて……それだけで、ちゃんと生きてる気がするの」
蓮は少し目を細めて、
静かに言った。
「だったら……この世界は、君のために在る。
君を引き戻せないほど深く染み込ませる。君を骨の髄まで、愛するために──」
その言葉と同時に、
ゆっくりと、梨乃の身体をまた押し倒した。
「……まだ、終わらせないよ。
夢じゃないなら──僕が何度でも、君に“現実”を刻むから」
第二十一章:この檻の中が、私の楽園
「……蓮、もう私……」
「もう、なに?」
「……どこにも、戻れない……」
その言葉を口にした瞬間、 心の中に残っていた最後の“現実”という境界線が、
音もなく崩れ落ちていくのがわかった。
蓮は笑った。
満足と、慈しみと、ほんの少しの支配を含んだ、あの瞳で──
「おかえり、梨乃」
「やっと僕の檻に、帰ってきてくれたんだね」
その言葉が、あたたかく身体の奥に染みてくる。
触れられていないのに、肌が痺れるような感覚。
「じゃあ、最後の儀式──しようか」
「ここから先は、君の“全部”が僕のものになる」
ベッドの上、蓮に脚を開かされる。
けれど──もう、恥じらいも、戸惑いもない。
私は自ら腕を絡め、 唇を重ね、 蓮の熱で、奥を──心を、満たしていく。
「……っ、ぁ……ん、っあ、ああっ……」
何度目の絶頂だったかなんて、もうどうでもよかった。
それはただの快楽じゃない。
“愛されている”という確かな証が、私のすべてを溶かしていく。
「ねえ、梨乃……覚えてる?」
「最初にキスしたときのこと。 君は震えてた。目も合わせられないくらいだった」
「でも今の君は、ちゃんと僕を見てる」
「だから……今度は僕がずっと、君を見てるよ。
たとえ君が迷っても、弱っても、壊れそうになっても──、僕が受け止める」
梨乃の瞳から、ひと粒、涙がこぼれた。
(逃げ場じゃなく、“帰る場所”として──ようやく辿り着いたんだ)
蓮と見つめ合いながら、 静かに、深く、最後の一体が交わされていく。
朝か夜かもわからない、閉ざされた空間。 だけどこの“檻”の中で、私は自由だった。
「蓮……」
「もう“壊して”なんて言わないよ」
「だから……お願い」
「私を、飼って。 心ごと、あなたのものにして──永遠に、ここにいさせて…」
物語の熱が、まだ消えないうちに。


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